HAGANEYA(@imech_jp)です。
1992年リリース。3rd『The Number of the Beast(邦題:魔力の刻印)』以降の黄金期を支えたボーカリスト Bruce Dickinson さんが一時脱退する直前(前年)のスタジオ盤です。
ちなみに Bruce さんは、前々作である 7th『Seventh Son of a Seventh Son(邦題:第七の予言)』リリース後に脱退したギタリスト Adrian Smith さんと共に1999年に再加入し、その翌年に 12th『Brave New World』をリリースすることになるのですが・・・奇しくも、盟友 Judas Priest の Rob Halford さん(1992年に一時脱退)と離脱時期が近いですね。
さて、本作を一言で説明すると「アイアンメイデン、お前もか」と言いたくなるような、"90年代の陰鬱な空気" に飲み込まれてしまった系の作品です。
単調なメロディラインを "味" と解釈するか "無駄" と解釈するかで評価がわかれるかも
Exciter(Stained Class) や Rapid Fire(British Steel) 辺りの Judasサウンドを90年代に蘇らせたかのようなスピード・チューン #1『Be Quick or Be Dead』、明るいメロディラインにも関わらず作品全体が醸し出す空気に引っ張られてか "アンニュイ" な雰囲気をどことなく感じてしまう #2『From Here to Eternity』、桃源郷に迷い込んだかの如きサイケデリックな前半~ミディアム・テンポの中盤を経てスピード・チューンへ移行する後半…とIron Maidenお得意のプログレッシブな展開を見せる #3『Afraid to Shoot Strangers』、中近東風のイントロ&グルーヴィーなリフのAメロが耳に残るスロー・チューン #4『Fear is the Key』、エピックな世界観を演出するドラミングが印象的な前半~湿り気を帯びた後半のスピード・チューンとの対比が実に英国的な #5『Childhood's End』、ドゥームメタルばりの陰鬱なコード進行&味わい深いメロディを兼ね備えたパワー・バラード曲 #6『Wasting Love』、戦慄のイントロが逃亡者の焦りを表しているかのような #7『The Fugitive』、サビに向けて盛り上がりを見せるBメロに光るものを感じる #8『Chains of Misery』、Faith No Moreを思わせる掴み所のない不安定なメロディによる前半~急に疾走し始める中盤…と終始不思議な空気を放ち続ける #9『The Apparition』、過去作以上にシリアスなサウンドが作品全体の空気感をビシっと締めるスピード・チューン #10『Judas Be My Guide』、USシチュエーション・コメディのOP・ED曲で流れていそうな脳天気なポップメタル・ナンバー #11『Weekend Warrior』、初期作の香りを微かに感じさせるマイナーコード主体のメロディ&ドラマチックな展開が魅力的なスピード・チューン #12『Fear of the Dark』。
3rd『The Number of the Beast』〜前作である 8th『No Player for the Dying』までの "大空を駆け回る" かのような開放的な音楽性から考えると、「一体どうしちゃったの?」と思ってしまうほどの閉塞的な雰囲気に支配されています。とりわけ、前作とのカラーの差は "極端過ぎる" と言っても過言ではありません。
確かに、Iron Maiden に対するステレオタイプなイメージを一旦捨ててみると、先入観を持って聴いていた時には気付かなかった "味わい深い音世界" が、ぼんやりと浮かび上がってくるのも事実です。
ただやはり、彼らが多用する "前フリ長めな楽曲構成" が、本作の単調なメロディラインと相性がすこぶる悪いというか・・・ダークな方向性を主軸にするのであれば、プログレ的なアプローチは一旦捨てたほうが良かった気がします。それこそ「二兎を追う者は一兎をも得ず」という諺が、ピッタリと当てはまる作品かもしれません。
ものすごく90年代的でありつつも、隣の芝生への "浮気心" をギリギリの所で耐えた作品
Megadeth が『Youthanasia』を作り、Judas Priest が『Jugulator』を作り、Anthrax が『Sound of White Noise』を作ったように、「当時の Iron Maiden も時代の流れには逆らえなかったのかな・・・」というのが率直な印象になります。
ただし本作は、前述の作品群が(一時的に)捨ててしまった、正統派メタルの "しなやかさ" を残しています。大御所メタル・バンドが90年代にリリースした "隣の芝生" 系グルーヴ・メタル作品の多くは、当時の若者に媚びたいがあまり "暴れたい人向け" のアプローチに頼ってしまう傾向がありました。一方、本作はどちらかと言えば "70年代ブリティッシュ・ハードロック" に近い上品な音作りを守っているため、往年のメタルファンでも違和感なく聴けるかと思います。
Judas Priest で言うと、まさに『Sad Wings of Destiny(邦題:運命の翼)』や『Nostradamus』辺りの作風が好きな人向け、といった感じです(『Nostradamus』寄りかな・・・)。『Sad Wings~』に関して言えば、本作リリース時から約20年前の作品なので全く同じ質感とは言えませんが、音作りの方向性としては遠くはないのではないでしょうか。
サウンド・プロダクションについては、本作以前の作品から大幅に良くなり、現代的なメタル・サウンドへと進化しています。6th『Somewhere in Time』や 7th『Seventh Son of a Seventh Son』のようなシンセ臭も特に無く、オーソドックスな正統派メタルによく合う質感です。
ぶっちゃけ、全盛期(1st~9th)のディスコグラフィの中では "最も" 間口が狭い作品になりますので、最初に手に取ることは全くオススメしません。
本作の延長線上の作品とも言えるダークな雰囲気を持った次作『The X Factor』や、00年代以降の"大作主義" 寄りの作品群が好きな方々であれば先入観無しで聴けるかもしれませんが、それぞれの分野で "もっと上手くできる" バンドがたくさん存在するわけで、あえて Iron Maiden が後輩の音楽性をなぞる必要は無い気もします。
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