HAGANEYA(@imech_jp)です。
1988年リリース。タイトルが示す通り、バンドにとっての通算7作目となる本作『Seventh Son of a Seventh Son(邦題:第七の予言)』は、2nd『Killers』以降ギタリストを務めてきた Adrian Smith さんが一時脱退する前に参加した最後のスタジオアルバムとなっています(1999年に再加入)。
ところで、数ある Iron Maiden ディスコグラフィの中で一体なぜ本作のレビューを最初に書こうと思ったのかと言いますと、ただ単純に "一番最初に購入した記念すべきアルバム" だからです。何のひねりも無くて申し訳ない。
本作を手に取ったのは、13〜14年前になります。Judas Priest『Defenders of the Faith』の購入とほぼ同時期ですが、本作のほうを若干先に入手した覚えがあります。Judasの時とは違い、本作の購入動機は「店にこれしか置いてなかった」←これです。選びようが無かったわけですね。
正直「微妙なジャケットデザインだな・・・」なんて思いつつ、おそるおそるCDを再生。すると、メロディアスなパワーメタル・サウンドが流れてきました。#1『Moonchild』のことです。
私にとっての Iron Maiden の原体験は、この曲でした。「なるほど、この感じなら最後まで飽きずに聴けそうだな」と思ったのも束の間、#2『Infinite Dreams』の演歌みたいなイントロを聴いて早々にズッコケることになります。
Iron Maiden の作品を色々と聴いてきた方はわかるかと思いますが、『Moonchild』は彼らの楽曲の中では "変わり種" の部類に入ります。別のメタルバンドであれば "ド" が付くほどのオーソドックスな楽曲に分類されると思うのですが、Iron Maiden はプログレッシブ・ロック由来の複雑な楽曲を好んで作る傾向にあるため、この手のシンプルなサウンドは逆に珍しいかもしれません。むしろ『Infinite Dreams』のような "最後まで聴かないと全体像が見えてこない" タイプの楽曲が(本作に限らず)多い印象です。
もちろん、当時の私にはそんな事前知識があるはずもなく・・・本作の取っつきにくさを目の当たりにして「Iron Maidenって、つかみどころが無さ過ぎてよくわからない」と挫折し、以後しばらく寝かせることになります(後に、1st『Iron Maiden(邦題:鋼鉄の処女)』や3rd『The Number of the Beast(邦題:魔力の刻印)』を聴いて考えを改めることになるのですが、それはだいぶ先の話)。
"スロースターター" な楽曲も我慢して最後まで聴いてみると、印象が180度変わる
さて、第一印象が最悪の状態で一度封印してしまいましたが、本作は意外にも "良作" だったりします。前作『Somewhere in Time』や Judas Priest の『Turbo』同様、シンセ・サウンドを取り入れ始めた頃の作品であることが理由で一部のリスナーから微妙な評価を受けているようですが、前述の作品群のリリース時から2年経ち技術的(音源的)にはパワーアップしているため、チープな雰囲気は特に無いです。
Iron Maidenには珍しく変化球的なアプローチを封印した #1『Moonchild』、演歌みたいなイントロ〜テンポがコロコロ変わる前半パート〜中盤からの三連符〜後半の高揚感溢れるメジャーコード・パート…と最後まで聴くことによって印象が180度変わる #2『Infinite Dreams』、メタルではあまり見かけないポップ・パンクばりの明るいメロディに意表を突かれる #3『Can I Play with Madness』、Maidenお馴染みのギャロッピング奏法&耳に残るサビのメロディが素晴らしい #4『The Evil That Men Do』、現代型プログレメタルのルーツの一つとも言える約10分の長尺曲 #5『Seventh Son of a Seventh Son』、ウォーメタルの熱さとフォーク・メタル的なメロディを併せ持った #6『The Prophecy』、The Number of the Beast路線のキャッチーなメロディラインにテンションが上がるスピード・チューン #7『The Clairvoyant』、ギャロッピングとフラメンコ的アプローチを融合した美しいギター・サウンド〜Moonchild冒頭と同様のメロディで物語の完結を伝える #8『Only the Good Die Young』。
『Moonchild』や『Can I Play with Madness』などの全編キャッチーな楽曲もあれば、途中から勢いを増していくタイプの楽曲も存在します。とりわけ本作は、後者の "スロースターター" 的な特徴を持つ楽曲が地味に多いため、かつての私のように "飛ばし聴き" していると作品の真価に気付かずスルーしてしまうことがあるので注意が必要です。
『Iron Maiden』『Killers』『The Number of the Beast』『Powerslave』などの即効性が高い作品を基準に聴くと、本作はやや取っつきづらいと思います。シンプルな楽曲とプログレ要素の強い楽曲が混在しているため、どっちのテンションで聴けば良いのかわからず混乱してしまう感じでしょうか・・・
大作主義的な作風を好むバンドが、その要素を "売り" としてアピールし始めた最初の作品
本作は、"ギャロッピング奏法" や "パンキッシュなサウンド(初期)" だけが Iron Maiden ではないということを知ることが出来る作品です。元々 "大作主義" 的な構造の楽曲を作り続けてきたバンドが、その要素を "売り" として前面にアピールし始めた最初の作品だと思います。
これ以前の作品だと『Powerslave』が方向性的に一番近いですが、あちらの場合は最後の『Rime of Ancient Mariner』1曲にその役割を一任していた部分が大きく、全体的な作りとしてはむしろシンプルでした。本作はそんな『Rime of Ancient Mariner』路線の楽曲をメインに据えつつ、現代的なヘヴィメタル・サウンドにグレードアップした作品といった印象です。
ただし、本作から Iron Maiden を聴き始めると "どういう音楽性のバンドなのかが見えてきづらい" かもしれませんので、まずはやはり『The Number of the Beast』や『Powerslave』から入ったほうが良いと思います。ちなみに、同じく評価の高い『Iron Maiden』はどちらかと言うとパンクの要素が強いので、名盤ではあるものの "別バンドの作品" といった感じです(もちろんこちらもオススメ)。
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