最近、Amazon売り上げランキング上位の常連として、よく見かけるようになった本があります。それが、今回ご紹介する『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』という本です。

まず、タイトルを見た時点で「どうせ、最近流行りの “発達障害ビジネス” でしょ?」などと思われた方もいらっしゃるかもしれません。でも、実は発達障害の研究って 1930年代から行われていたりするので、昨日今日に出てきた概念じゃないんですよね。

ただ確かに国内においては、ここ数年でようやく認知度が上がってきた障害ということもあってか、まだまだ世間の理解は追いついていない印象です。加えて日本の匿名ネット界隈では、空気が読めない(という印象を持たれてしまった)方々を指す侮蔑語に近い使われ方をしており、あまり良いイメージを持たれていません。これは本当に気の毒・・・

さて、なぜ今回この本をご紹介しようと思ったのかと言いますと「既存の自己啓発本・ライフハック本がカバーしきれていない部分を押さえている」と率直に感じたからです。

発達障害当事者に限らず、世の中には「周りの人達は当たり前のようにこなせていることを、なぜか自分だけは上手くできない・・・」と悩む方々がたくさんいらっしゃると思うんですね。そういった方々を助けるのが自己啓発本の本来の役割であるはずなのですが、果たして “本当に” 読んだ人間すべてが救われているのでしょうか?個人的には疑問を抱かざるを得ません。

まず人によっては、それ以前の部分でつまずいている可能性もあるわけです。一般的な自己啓発本の著者にとって「え・・・さすがにそこは、説明しなくても普通にできると思ってたんだけど」ぐらいの些細なことを上手くできない方々は確実に存在します。まさに本書は、そんな方々のためのものです。

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目次について

目次は、以下のような感じです。

●第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ 【仕事】
「かばんぶっこみ」こそが最強の戦略である
「バインダーもりもり作戦」で書類の神隠しを防ぐ
さらば、片づけ地獄! 「本質ボックス」と「神棚ハック」 ほか

●第2章 全ての会社は「部族」である 【人間関係】
人間関係の価値基盤「見えない通貨」
部族の祭礼「飲み会」は喋らず乗り切れ
共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげること ほか

●第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ【生活習慣】
「眠れない」あなたがやるべきたったひとつのこと
発達障害の僕でもできた、最強の「二度寝」防止法
身だしなみは「リカバリー」を重視せよ ほか

●第4章 厄介な友、「薬・酒」とどう付き合うか【依存】
コンサータを飲んでみた感想――ないと「事務ミスドミノ倒し」が発生
ストラテラを飲んでみた感想――僕は今飲んでいません
飲んでいい酒、飲んではいけない酒 ほか

●第5章 僕が「うつの底」から抜け出した方法【生存】
休日に全く動けなくなったらすべきこと
うつの底で、命を救う「魔法瓶」
自己肯定に「根拠」はいらない ほか

Amazon商品ページより引用

仕事効率化・職場の人間関係向上・生活習慣の改善・依存症からの脱却・うつとの向き合い方・・・などなど、幅広い分野・切り口における解決策がてんこ盛りです。

巷のビジネス本と同様、軽いネタバレっぽくなってしまっている見出しもありますが、本文ではさらに「なぜそれが必要なのか?」「それを導入することで、自分の人生に一体どのような好影響が及ぶのか?」といった理由について詳しく言及されています。

なお個人的には、第2章の内容がものすごく参考になりました(次項で触れます)。この考え方をサラリーマン時代に出来ていたら、もうちょっと上手く立ち回れていたかもしれない・・・

 

“部族” に嫌われると、後が厄介

新卒ではほぼ確実に、中途採用でも結構な確率で「歓迎会」をやってもらうと思いますが、あれは本当に危険な集まりです。

要するに、新入りに酒を飲ませて本性を見定め、全員で値踏みする会ですからね。あんな邪悪な会はそうそうない。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第2章より引用

会社には “目に見えないルール” が山ほど存在すると思うのですが、新人社員が知らず知らずのうちにルールを破ってしまうことで周囲に「あいつは失礼なやつだ」といった印象を与えてしまいます。

そこで「こういう時は、こうすれば良いんだよ」とアドバイスをくれる先輩がいればマシですが、会社によっては陰口を叩かれたり新人イジメへと発展する場合もあるため注意が必要です。
※ちなみに 20代前半の頃、派遣社員として働いていた某電気工事会社で、新人イジメに遭ったことがあります。歴史の長い会社で職人気質の社員さんが多かったのも手伝ってか、常に品定めをされているような状態でした。初対面&こちらが何もしていないにも関わらず、挑発するような高圧的な態度で接してこられたのでイラッとしてつい言い返してしまい、そこからは無視されたり陰口を叩かれたりしていた覚えがあります。イラついて言い返してしまった私も悪いんですけどね(彼らを反面教師として、次に入った会社では後輩に優しくすることを常に意識していました)。

本書ではこのような会社の人間関係を “部族” で例えています。まさに言い得て妙。

好戦的な部族(本物の部族)は、ときに部外者・侵入者を殺してまで種を守ろうとします。さすがに会社でそんな物騒なことは起こりませんが、彼らのローカルルールに背くような動きをしてしまうと間違いなく目を付けられるでしょう。例えその動きが、意図的なものではなかったとしてもです。

彼らの主張していることが理不尽だろうがなんだろうが、関係ありません。とにかく、彼らに嫌われてはいけないのです。

著者『借金玉』さんのスタンスとして、本書では “部族に嫌われないための立ち回り方” をレクチャーしてくれています。

 

また、部族を喜ばせることを “見えない通貨を払う” という言葉で表現しているのは、秀逸だな~と思いました。

いますよね。ちょっと顔を立て損ねると不機嫌になる上司。自分を飛ばして話が進んだらぷりぷり怒り出す人。

当時は意味不明だと思っていましたが、今はわかります。あれは「自分に支払われるべき対価が支払われなかった」という怒りなのでしょう。

この「敬意」や「尊重」はかなり強力な決済手段と言えると思います。新卒の若手、平社員など組織の下っ端としてやっていく場合は、支払いに使える通貨はほとんどこれしかないと言っていい。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第2章より引用

正直、私も過去に「何で、こんなやつの顔を立てなきゃいけないんだ!」と腹を立てた場面は割とあります。

本書では、不機嫌な相手を “器の小さい人間” みたいな感じで描写しているところもありますが、一方で「でも世の中って、こういうもんだよなぁ」とも思いました。儒教思想の弊害と言ってしまえばそれまでですが、そうは言っても「ここ、日本だし」ってな話で。顔を立てるだけで場が丸く収まるのであれば安いものです。

 

茶番センサー

世の営為の茶番性とでも言うべきものを読み取り、「くだらない」という結論を下す能力を、僕は「茶番センサー」と呼んでいます。

このセンサーがピンと反応すると、全てのモチベーションは失われ、シニカルさやアイロニックな考え方が頭をもたげてきます。

実際、この本も読み方を変えれば「仕事」に対する徹底的な皮肉にも読めるでしょう。それは所詮この程度のくだらないことだ、という気持ちがないと言ったら嘘になります。僕は基本的に性根の歪んだ皮肉屋です。

しかし、「茶番でありくだらない」ことと「簡単である」ことは全くイコールではありません。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第2章より引用

そんな前項の “部族に媚びる” 生き方に対し、読者が反発心を抱くであろうことを先回りしたかのような、説得力のあるキラーワード。

確かにそうなんですよね。ここで “斜に構えちゃう” から、人間関係が上手くいかない。だから「内心では茶番だと思ってても良いから、せめて表向きは合わせておけ」と。

もっとも、これが無意識にできないタイプだからこそ、皮肉的な捉え方へと傾倒していってしまうのかな・・・とは思いますけどね。ただ少なくとも「あ、今 “茶番センサー” 反応してるわ」と自覚できているだけで、その後の立ち居振る舞いは大きく変わってくる気がします。

 

「何もしない」ことの重要性

それは、雪山で吹雪に閉ざされたときに似ています。雪洞を掘って、身体を丸めて眠る。できることはそれだけなのです。そして、それは生き残るための「行動」なのです。

吹雪は永遠にやまないかもしれない。二度とここから動けないかもしれない。それは十分あり得ることです。

しかし、それでも今できることは休むことしかない。吹雪の山中でバタバタ動き回っても死ぬだけだ。そう開き直って僕はひたすら眠りました。「動かない」「考えない」という行動を自分に課して、ただひたすら回復に努めるしかないのです。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第5章より引用

著者の借金玉さん自身が経験された重度のうつ状態を “遭難” に例えた、一節。

ここまでひどくはなかったかもしれませんが、実際私も過去に丸々2年間、ほとんど身動きが取れなくなってしまったことがあります。一日中ベッドで寝たきりのような生活を続けており、頭が回らず何も考えられないような状態でした。

その後、筋トレを始めたことにより緩やかに精神状態が改善していった感覚はあります。

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ただし、本書では “必ずしも、運動によって精神状態が安定するとは限らない” という旨の警鐘を鳴らしています。

よく、うつには筋トレだランニングだ、みたいな行動的な療法がすすめられることがありますが、僕はあれにあまり賛同できません。

うつ状態では人間の思考力や活動力は驚くほど低下しています。ランニングはすぐに疲れ果てて目標とした距離を走れなかったでしょうし、勉強をしてもまるで頭に入らず「俺はこんなに頭が悪かっただろうか?」みたいな感じになるのが一般的でしょう。

もちろん、ランニングも筋トレもうつの回復にポジティブな影響をもたらすものだと思いますが、順番が違います。やりたくなるまでは、無理をしてはいけません。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第5章より引用

今となっては私も、この考え方に同意です。

先ほどのリンク先でも言及していますが、過去に幼なじみがオーバードースによって命を落としています。以前は彼に対して「もし運動を取り入れていたら、薬に頼ることなく精神状態が回復していたんじゃないか?」と安易な考えを抱いていたのですが、うつの症状にも個人差はあると思うんですね。

薬を大量摂取してしまうほど精神的に追い詰められた人間が運動を取り入れようとすること自体、そもそも無理があります。もちろん大量摂取は厳禁ですが、適切な量の薬を服用したほうが状況が好転する可能性が高いのであれば、迷わずそちらを選ぶべきです。

 

他人を肯定することで、自己肯定の免罪符を得る

無根拠な自己肯定を手に入れる方法は何か。

それは無根拠に他者の生を肯定することそのものだと思います。他者を肯定した分だけ、自分も肯定していいという考え方です。

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』第5章より引用

世間では、”自分に厳しく、他人に優しい” を美徳とする風潮があると思うのですが、本書では「自分にも優しく、他人にも優しく」という考え方を推奨しています。

もちろん、成功する確率が高いのは、自分に厳しく他人に優しい人でしょう。ただ、こういった余裕のある立ち居振る舞いができるのも才能の1つだと思うんですね。このタイプは、先天的に “デキる” 人なのかもしれません。

逆に、もしあなたが “無理をしないと、自分に厳しく他人に優しい自分を演出できない” タイプなのであれば、どこかでプレッシャーに押しつぶされてしまう可能性があります。だってそれは “本来の自分ではない” から。

だったらいっそのこと、無理して格好良い自分を演じるのをやめて「これだけ相手の重荷を下ろすのを手伝っているんだから、自分も気楽にいこう」ぐらいの気持ちでいたほうが、遥かに幸せな人生を送れるかと思います。

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まとめ

当記事で触れていないものもありますが、本書は大体こんな感じの本です。

  • 興味の無いことに “ハマる” ための方法がわかる
  • “定型発達者の方々にとっては当たり前過ぎて教えてくれないこと” を筋道立てて教えてくれる
  • 睡眠に対する認識・常識が大きく変わる
  • ネットの情報に煽られてコンサータやストラテラに過剰な期待を寄せる方々が知りたいであろう “生の声” を聞ける
  • うつ症状への対処法・アドバイスが極めて慎重・安全かつ丁寧
  • どちらかと言うと “サラリーマンで頑張って行きたい人” 寄りの対処法であり、自営業・フリーランスの方々が取り入れるには微妙
  • 全ての当事者の方々が取り入れられる内容かどうかは保証できない

巻末解説で精神科医の『熊代 亨』先生も仰っていますが、やはり本書は発達障害当事者の方々だけのものではないように思います。むしろ当事者の方々でも、この本のノウハウを取り入れられるかどうかは個人差が出てくるはずです。

また逆に、定型発達者で “生きにくい” と常に感じている方々は、既存の自己啓発本でカバーしきれなかった部分をカバーしてくれる本書によって何かしらのヒントをつかめるかもしれません。

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