『スタンフォードの自分を変える教室』とタイトルが似ているという理由で本書を手に取られた場合、もしかすると肩透かしを食らうかもしれません。
※ちなみに原書は2009年8月発売なので、時系列的には『ハーバード~』のほうが先だったりします(『スタンフォード~』は2011年12月発売)。
というのも、実は『ハーバード~』と『スタンフォード~』は出版社が同じ(大和書房)なんですね。これは私の推測ですが、おそらく "2冊をセットで買ってもらう" ために、邦題を似たようなテイストで合わせたのではないかと思っています。原題まったく違うし。
今回ご紹介する『ハーバードの人生を変える授業』は、先人が書いた自己啓発本のエッセンスを筆者『タル・ベン・シャハー』さんによって分かりやすく噛み砕かれた、いわば "良いトコ取り" の本です。
巷にはオムニバス形式のライトな自己啓発本が溢れていますが、本書もそういった類の本だと思ってもらって構いません。「手っ取り早く、悩み解決のヒントを得たい」という場合などには、割と役立つのではないでしょうか。
ネットのライフハック系サイト/ブログの "オフライン版" みたいな本
身も蓋もないことを言ってしまいますが、本書を読んでいると "ネット上のライフハック系サイトで気になる記事を拾い読みしている" かのような感覚を覚えます。
とは言え "複数のサイトをハシゴして情報を収集し、自分なりに整理&精査してまとめる" みたいな作業はある程度省けるわけで。そう考えると、1冊の本としてオフラインでいつでも読めるというのはメリットと言えるかもしれません。
例えるなら、学校一アタマの良いクラスメイトが代わりに作ってくれた "テスト勉強用の対策ノート" といった感じでしょうか。
逆に言えば、最初の自己啓発本が本書のようなものの場合 "他人が作ったテスト対策ノートだけを読む" 感じになってしまいがちです。そのため、よほど前のめりで取り込もうとしないと、学びが場当たり的になりそうな気はします。
"事例集が無い" がゆえの物足りなさ
本書には、"第三者の事例" がほとんど出てきません。
※ただし "筆者本人による経験談" としての事例は割と詳細に書かれています。
一応、「かの有名な○○はこう言っていました」的な形で格言を引用している箇所はあるものの、基本的には "いきなり結果や方法を教えてくれちゃう" タイプの本だということですね。
このタイプの自己啓発本の良い点は、筆者の思想に影響されにくいところです。なので、既に確固たる生き方を確立していらっしゃる方々が "肉付けするために" 読む分には良いでしょう。
ただ、そもそも自己啓発本を手に取るのって、人生の指針を求めているような方々だと思うんですね。そういった方々に検証結果やノウハウだけを渡しても、実践するにあたっての動機が曖昧だと、本書の内容を活かそうという方向に意識が向きにくいかもしれません。
ですので、個人的には "事例集がたっぷり入った定番の自己啓発本" を先に読んでおくことをオススメします。そのほうが、本書をより効果的に活用できるはずです。
自分自身を "的確に" 評価する
とはいえ1人の講師がまとめた本なので、オムニバス形式と言えど "筆者が特に伝えたいこと" は、読んでいるうちに何となく見えてくるものです。
私の主観になってしまいますが・・・この本で筆者が主に伝えたいことは、大体この辺りなのではないかと感じました。他にもあるかもしれませんけど。
- 嫉妬と向き合おう
- 自分をいたわろう
- ありのままでいよう
目に見える業績とは関係なく、コアセルフ、つまり自分の本当の姿をきちんと認めなくてはなりません。
存在自体のすばらしさを認め、自分には価値があると感じなければなりません。
自分の価値を受け入れなければ、才能や可能性、喜び、成功を無視し、過小評価することにやっきになってしまいます。
『ハーバードの人生を変える授業』209ページより引用
人生をより良くしていくためには、過小評価も過大評価も危険だと思っています。
何事も "的確に" 評価されるべきで。それは他人からのものだけでなく、自己評価をする際も一緒なんですよね。
素晴らしいことを行ったのであれば、きちんと自分を褒めてあげる。そこを疎かにすると、じわりじわりと心のバランスが崩れてきて、結果的に潰れてしまう。自分をいたわるのは "自分のため" でもあるし、"人のため" でもある。
人様に迷惑をかけないためにも、日頃から自分自身としっかりと向き合っていく必要があるということですね。
"歪んだ思い込み" を可視化して書き換える
と同時に、
エドモンドソンはこの研究結果から、うまく統率されたチームでは「心理的な安全性」が確保されていることを発見しました。
そこでは遠慮なく意見を言っても、助けを求めても、たとえある業務で失敗しても、決して恥ずかしい思いをさせられたり、罰せられたりしないという安心感があるのです。
チームリーダーが心理的に安全な環境をつくりあげ、メンバーが失敗に対して否定的感情をもたずに、ミスを共有し話し合うことができれば、チーム全員が学び、向上することができます。
その反対に、批判を恐れてミスが隠蔽されるようであれば、何も学ぶことはできず、ミスが繰り返されることになるでしょう。
『ハーバードの人生を変える授業』176ページより引用
気兼ねなく自分の思っていることを発信できる環境が、いかに大事かということを痛感しています。
自分はどちらかと言うと、心理的な安全性が確保された環境で育ってきませんでした。そのため自己評価は低いほうですし、それが当り前だと思って生きてきた節はあります。
私と同じような境遇の方は割とたくさんいらっしゃるかと思うのですが、我々のようなタイプは何とかして、自力で "正しい自己評価の方法" を学んでいかなければなりません。
で、そんな我々みたいな人間のために、本書が提唱しているであろうものが
【認知療法】です。
認知療法(にんちりょうほう、cognitive therapy)とは、人が成長するにつれ固定的なスキーマが形成され、それに基づいて歪んだ思考方法や考えが自然に浮かぶ自動思考が起こっており、そうした認知の歪みに焦点を当てて、認知を修正することで症状が改善されるとされる心理療法である
Wikipedia『認知療法』より引用
結局、現在の自分が抱えている "歪んだ思い込み" を可視化した上で、その思い込みを "正常なものに書き換える" というプロセスを「読むだけではなく、実際にやってみましょうね」ってのが本書のメッセージであり、存在意義だったりするんだろうな〜と思っています。
セルフ認知療法の "ガイドブック" として活用できるかも
本書はライトで取っつきやすいからこそ、能動的なアプローチが必要な認知療法の "ガイドブック" として活用しやすいと考えています。
事例てんこ盛りタイプの自己啓発本は "全部入り" のメリットと引き換えに、フットワークが犠牲になっている部分も若干あったりしますからね。本書の武器は、フットワークの軽さかも。
逆に言うと、やはり本書は読み物ではなく "実践マニュアル" と捉えるべきで。普通に読み進めると、既存の自己啓発本の焼き直しといった評価に収まってしまうのだと思います。
あとがき
購入当初(約4年前)は、読んだ気になって「内容うっす!」とか舐めたことを言っていた覚えがありますが、この本は意外と使えると思います。
ただやはり、最初に手に取るタイプの本ではないのかなぁ・・・人によっては本書だけでも現状打破のキッカケになるかもしれませんが、とりあえず4年前の私には消化できませんでした。
「変わりたい気持ちはあるんだけど、まだ "心" が付いて来ていない」という自覚があるのであれば、最初に手に取るのは本書ではないのかもしれません。でも良い本です。
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