HAGANEYA(@imech_jp)です。
1992年リリース。前作『Rust in Peace』から2年ぶりとなる通算5作目のフルアルバムであり、アメリカで200万枚・カナダで30万枚・イギリスで6万枚のセールスを記録した作品です。
プロデュースには、前作のミキシングを担当した Max Norman さんを起用。なお Max さんは、次作『Youthanasia』及び EP『Hidden Treasures』のプロデュースも担当しています。
アートワークは、プログレ界隈のバンドを数多く手掛ける Hugh Syme さんが担当。本作の "天に召される直前の老人" のアートワークは、同氏による次作の "物干し竿×赤ん坊" アートワークと共に、メタルシーンでもトップクラスの存在感を放つ "名画" です。同時代に生きているため気付きにくいですが、前述の2作品は何百年後に16〜17世紀の歴史的な絵画と同列で語られるようになる気がします。
さて、アートワークの存在感の濃さからスピード・オリエンテッドなサウンドを想像してしまう方も多そうな本作。実際のところは、90年代のグランジ/オルタナティブ・ムーブメントに歩幅を合わせたミドルテンポ主体の音楽性へと急激に変化しています。
正統派メタル由来のタイトな質感を堅持した "Megadeth流90年代メタル"
- Skin o' My Teeth
- Symphony of Destruction
- Architecture of Aggression
- Foreclosure of a Dream
- Sweating Bullets
- This Was My Life
- Countdown to Extinction
- High Speed Dirt
- Psychotron
- Captive Honour
- Ashes in Your Mouth
前作の "Tornado of Souls" に相当するスピード・チューン #1『Skin o' My Teeth』#8『High Speed Dirt』など、初期 Megadeth を好む層に対しての気遣いはあるものの、それ以外の楽曲全てがミドル・チューン。表面上では、まさに "フルモデルチェンジ" と言っても良いほどの変貌ぶりです。
ただし Mustaine さんが奏でるシニカルなメロディラインは健在ですし、むしろ "過去作以上に味わいが増している" と言っても過言ではありません。
ちなみに本作以降の Megadeth の作品は、平均して "ミドル曲8:スピード曲2" ぐらいの割合で構成されています。この比率は、記事執筆時点での最新作『Dystopia (2016年リリース)』においても同様であり、本作で確立したスタイルに Dave Mustaine さんが満足していることが窺えます。
ここまで読んでいただいた時点でわかるかと思いますが、スピード狂のメタルリスナーからは基本的に "不評" な作品です。
ただし、サウンド・プロダクション的には正統派メタル由来のタイトな質感を堅持していますし、ミドル曲のドラミングもオルタナ系統の跳ねるような感じではなく "ハードロック調のどっしりとしたリズム" となっています。どのみち、スピードメタル・スラッシュメタル好きにとっては退屈かもしれませんが、メタル全般を分け隔てなく聴けるタイプのリスナーであれば全然 "守備範囲" の音楽性でしょう。
90年代どころか、00年代以降の Megadeth 作品全ての "基本フォーマット"
次作(Youthanasia)でドンシャリ&ストンプ感強めなサウンドに "一旦" 浮気する彼らですが、1997リリースの 7th『Cryptic Writings』では再び本作寄りのサウンド・プロダクションへ戻っています(Metallica における『Load』的なカントリー色をわずかに添えて・・・)。この時点で、Youthanasia ではなく本作を "基本フォーマット" として残したことがわかるはずです。
Megadeth の何がスゴイかと言うと、この "意外とオルタナ方面へ脱線し過ぎなかった" という点にあります。
スラッシュメタル原理主義者にしてみれば本作以降の90年代 Megadeth は十把一絡げかもしれませんが、Youthanasia 以外の作品は "ギリギリの所で母屋を乗っ取られないよう踏ん張っている" 印象です。何なら Youthanasia にも、正統派メタル・スタイルの疾走曲(The Killing Road・Victory など)をきちんと用意してるぐらいですし、Slayer ほどでは無いものの "骨のある" スラッシュメタル・バンドではないでしょうか。
ただ "個人的な趣味" としては、スピード曲メインならスピード曲メインの作風、ミドル曲メインならミドル曲メインの作風だけで貫いてほしかったかな・・・といった感じです。ミドルテンポの楽曲が嫌いなわけではないのですが、思い出したようにスピード・チューンを挟まれると頭の切り替えが大変ですし、どちらか一方に振り切ったほうが聴き手に優しいような気はします。
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