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音楽のこと

【鋼】Queensryche『Dedicated to Chaos』レビュー

2016年9月17日

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HAGANEYA(@imech_jp)です。

2011年リリース。前作『American Soldier』から2年ぶりとなる通算11作目のフルアルバムです。プロデュースは前作と同様、Kelly Gray さんと Jason Slater さんが共同で担当しています。

本作を最後に Geoff Tate さん(Vo.)はバンドを追放されることとなります。その際に彼は、本作にゲストミュージシャンとして参加していた Kelly Gray さん及び Randy Gane さんを引き連れ、2013年に『Frequency Unknown』というアルバムを "Queensryche名義で" リリース。こちらの "偽Queensryche" は、本家Queensryche とバンド名の使用権を巡って争い、和解した後にバンド名を『Operation: Mindcrime』と改め、活動していくこととなります。

一方、Michael Wilton さん(Gt.)・Eddie Jackson さん(Ba.)・Scott Rockenfield さん(Dr.) の3人は、2010〜2012年まで Crimson Glory の三代目ボーカリストを務めていた Todd La Torre さんと共に『Rising West』名義でライブを開催(W→Wilton・E→Eddie・S→Scott・T→Todd)。このライブが非常に好評だったことが決定打となり、3人は Geoff さんの後任として Todd さんを迎え、さらに本作のゲストミュージシャンを務めていた Parker Lundgren さんを正式なギタリストとして採用することを決定します。

何がすごいかと言うと、欠席裁判 → Rising West 名義でのライブ開催 → Geoff さん解雇決定、までの流れが "わずか3週間" の間に起こった出来事だということです。いかに3人が、Geoff さん主導による独裁的なバンド活動に嫌気がさしていたかが伝わってきます。

そもそも Geoff さんと楽器隊3人との不仲は今に始まったことではなく、本作リリース時の15年以上前から抱えていた問題だったわけですが・・・良くも悪くも作品そのものが(出来不出来とは関係ない所で)一連の騒動に巻き込まれてしまった感は否めません。

さて、そんな "本家Queensryche" と "偽Queensryche" のメンバーが一堂に会した本作は、相変わらずのオルタナ路線を踏襲したサウンドによって、一般的には 7th『Q2K』〜 8th『Tribe』と並ぶ低評価を受けてしまった不遇の作品です。

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ファンク・メタル要素の影でひっそりと産声をあげた "ヘヴィメタル回帰" への兆し

  1. Get Started
  2. Hot Spot Junkie
  3. Got It Bad
  4. Higher
  5. Wot We Do
  6. Around the World
  7. Drive
  8. At the Edge
  9. I Take You
  10. Retail Therapy
  11. The Lie
  12. Big Noize

前作を "陰" とすれば、本作は "陽"。Faith No More や Fishbone、あるいは "母乳" 期のレッチリ辺りを思わせるファンク・メタル的なアプローチを基調としたサウンドは過去最高にグルーヴィであり、緊張感を売りとしていた "かつてのQueensryche節" はだいぶ薄れています。

とは言いつつ、Guns N' Roses の Sweet Child o' Mine を彷彿とさせるメロディラインに U2 的な空間の広がりを加えた #6『Around the World』を中盤に配したり、後半からは #8『At the Edge』#9『I Take You』#10『Retail Therapy』のような "往年のQueensryche" をモダンなアレンジで再解釈した感じの楽曲も出てきたりと、必ずしもファンク一辺倒というわけではありません。

#12『Big Noize』の、Pink Floyd をシューゲイザー/ドリームポップの海に投げ込んだ感じのサウンドもなかなか新鮮で面白いです。5th『Promised Land(邦題:約束の地 〜プロミスト・ランド〜)』辺りに入ってそう。

 

"バンドの主導権を巡る争い" は、既に始まっていた

本作の巷での評判はあまりにも酷く、中には「Queensrycheらしさが全く無い」といった声も聞かれますが、個人的にはファンク・メタル要素に隠れて "あの頃のQueensryche" がこっそりと顔を出している感じが結構ツボだったりします。

"本家Queensryche" と "偽Queensryche" のバチバチ感というか「主導権を握るのは俺たちのほうだ」とお互いに言わんばかりの "陣取り合戦" 具合は、本作ならではの聴きどころではないでしょうか。例えば、クレジットを見てみても Scott さんの担当曲はどことなく全盛期の彼らを思い起こさせますし、Geoff さん陣営の担当曲はオルタナ色が強めだったりしますし・・・

Geoff さん脱退後にリリースされた次作『Queensryche(2013)』の作風は、往年のファンに "ヘヴィメタルへの回帰" を印象付けるものであり、これはこれで嬉しい流れです。とは言え、Geoff さんが手綱を握っていた時代の作品に全く見どころが無いのかと言えば、私は「そんなことはない」と思っています。

そもそも "出自が正統派メタル" であり、全盛期の作品も "ステレオタイプなプログレメタルではなかった" 彼らがグランジ/オルタナ路線といった畑違いの音楽性に興味を持っていったこと自体は、よくよく考えると自然な流れです。"サウンド・スタイルとしてのプログレメタルの追求" ではなく "変化し続けること" を選んだ彼らの歩みそのものがプログレッシブだと言えますし、求めるプログレの形がお互いに異なるからこそ、本作のような "つかみどころのない怪作" が誕生したのではないでしょうか。

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