HAGANEYA(@imech_jp)です。
1988年リリース。前作『Reign in Blood』から2年ぶりとなる通算4作目のフルアルバムであり、アメリカで50万枚・イギリスで12万枚・カナダで5万枚のセールスを記録しています。
プロデュースは前作同様 Rick Rubin さんが担当。Def Jam Recordings 在籍時最後の作品ですが、同レーベル共同創設者 Russell Simmons さんと Rubin さんのパートナーシップ解消に伴い、現在は所属レーベル American Recordings(旧Def American Recordings)名義となっています。
Howard Schwartzberg さん及び前作のアートワークを手掛けた Larry W. Carroll さんらが担当した "十字架の刺さった頭蓋骨に群がる生き物" のアートワークは、精神を病みそうな前作のものと比べると幾分か "ベタ" な表現になっており、ポップと言われればポップです。
前作や前々作で "速さ" にフォーカスした作風を極めてしまったことも影響してか、本作はわかりやすく楽曲構成に緩急が付いており、比較的取っつきやすい作品となっています。
スピードだけに依存せず "前後の流れ" を重視した、しなやかな楽曲構成
- South of Heaven
- Silent Scream
- Live Undead
- Behind the Crooked Cross
- Mandatory Suicide
- Ghosts of War
- Read Between the Lies
- Cleanse the Soul
- Dissident Aggressor
- Spill the Blood
ローテンポのおどろおどろしいイントロから始まる #1『South of Heaven』は、前々作の冒頭曲 Hell Awaits(Hell Awaits) を思わせる "演出重視" の方向性へと回帰。さらに後半も "ミディアムテンポ" 程度のスピードアップにとどまっており、本作のコンセプトの片鱗を垣間見ることが出来ます。
他にも、この "意図的にスピード感を抑えた" 楽曲は #5『Mandatory Suicide』#10『Spill the Blood』など要所要所で登場。個々の楽曲で勝負するというよりは "前後の流れ" に重きが置かれている印象です。
Sin After Sin(邦題・背信の門) 収録曲のカバーである #9『Dissident Aggressor』はブリティッシュ・ハード感強めな原曲をストロングなグルーヴ・メタルへと大胆にアレンジ。Pantera や Metallica を彷彿とさせるダミ声系の歌唱法が絶妙にマッチしています。
また、#4『Behind the Crooked Cross』#7『Read Between the Lies』でも NWOBHM ライクなパートが主張していますが、1st『Show No Mercy』の頃と比べるとアレンジが完全に "Slayer仕様" に進化。スキルアップを如実に感じられる楽曲となっています。
なお、人づての先入観で "遅くなったから駄作" などと安易に烙印を押すタイプの方々はそもそも本作を聴いていないのかもしれませんが・・・きちんと #2『Silent Scream』#6『Ghosts of War』#8『Cleanse the Soul』といった前作と同等のスラッシュ曲も入っています。
とりわけ、#1 → #2 → #3 の "スピードだけに依存しない" しなやかな流れは、メタルコア世代のバンドに間違いなく影響を与えたであろうことが容易に想像可能です。Hatebreed が Killswitch Engage の『The End of Heartache』をアレンジしたら、多分こんな感じのサウンドになりそうな気がします。
"物理的な過激さ" だけが Slayer の魅力ではない
スラッシュメタル以降の派生ジャンルを知ってしまうと「Reign in Blood よりスピードを上げて過激にすることなんて簡単じゃないの?」なんて思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも "そういうことじゃない" というか・・・Slayer の魅力って速さだけじゃないと思うんですよね。
それをわかっているからこそ、本人達も安易に "物理的な過激さ" へと傾倒していかなかったのではないでしょうか(わかんないけど)。彼らのルーツとなる音楽を知っていく内に、何となくそんな気がしてきました。
"2ndがブラックメタル系" で "3rdがデスメタル系" だということは以前の記事で触れましたが、ザックリ言うと本作は "メタルコア系" という感じです。ブレイクダウンのご先祖様みたいな "遅いパートを意図的に挟む" 手法は前作・前々作とも明確に異なり、新たな路線の開拓に成功しています。
なお、緩急の付け場所は異なるものの、次作『Seasons in the Abyss』も基本的には同路線のサウンドであり、本作が好きな方には是非ともセットで聴いてほしい作品です。
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