HAGANEYA(@imech_jp)です。
2016年リリース。前作『Dream Theater』から3年ぶりとなる通算13作目のフルアルバムであり、6th『Six Degrees of Inner Turbulence』以来の2枚組コンセプト・アルバムです。
Six〜 の作風が Disc1(実験作) と Disc2(正統派プログレ) で真逆だったのに対し、本作は完全に "地続き" となっています。そのため Disc1 の冒頭数曲を聴いて「あ、この路線は合わないわ・・・」と少しでも思った方にとって、本作を通して聴くという行為は苦痛で苦痛で仕方がないでしょう。
結論から言うと本作は、純度100%メロディアス系のプログレ・ハード作品であり、7th『Train of Thought』系統のヘヴィ系作品や、テクニック偏重型の大作曲以外を一切認めないリスナーの方々に "駄作" のレッテルを貼られかねない作風です。
Jordan Rudess 加入後の "弾き過ぎ" 感にウンザリしていた人よ・・・戻ってこい!
まず本作は、最短28秒 〜 一番長い曲で7分41秒と、楽曲単体で見ていくと最もコンパクトに構成されています。とは言え Disc1 → 20曲、Disc2 → 14曲 の全34曲(2時間10分23秒) ですから、まあ "長い" です。
ただ、楽曲自体は Rush 由来の超メロディアスなものだったり、Yes のような緊迫感を感じさせるテクニカルな楽曲(#1-13など)もちょいちょい挟んだりと "長さの割には" 聴き手を飽きさせない構成にはなっています。インターバル的なパートも4〜5曲おきぐらいに出てくるので、そのタイミングで一緒に休憩を挟みながら聴くとダレにくいかもしれません。
歌詞(というかシナリオ)は全て John Petrucci さんによって書かれているわけですが・・・それよりも驚くのは、全作曲が Jordan Rudess さんと Petrucci さんによって行われているということです。
Rudess さんと言えば "弾き過ぎキーボード・プレイヤー" といった先入観があまりにも強く、5th『Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory』以降の作品については若干距離を置いて聴いていました。彼のプレイ・スタイルを受け入れられるよう努力をしていたぐらいです。
ところがどうでしょう。本作における Rudess さんの "引き立て役に徹したキーボード・サウンド" は、楽曲が描こうとしている世界観の邪魔をするどころか、作品の魅力を引き出すための強力な武器となっています。
まさか彼がこういった方向に進むとは思いもしませんでしたが、よくよく考えると Mike Portnoy さん在籍時の 8th『Octavarium』辺りから、既に "引きの美学" を模索していたと思われる楽曲は一部存在していたのです。
Portnoy さんに全てをなすり付けるつもりはありませんが、もしかすると 5th〜10th までの Rudess さんのテクニック偏重プレイも、Portnoy さんからの要望によるものだったのではないか?と勘繰ってしまいます(そのぐらい 11th 以降の変わりようが凄まじいので・・・)。
Imeges and Words 支持者の間でも賛否両論を起こしてしまった理由
ところで、本作に対する巷の評判を聴いていて私が最も驚いたのは、ヘヴィ系 Dream Theater を好む方々のみならず、Images and Words 路線のサウンドを好む方々の中でも意見が真っ二つに分かれていたことです。
前作の記事でも書きましたが、自分にとっての Dream Theater サウンドは "アメリカン・プログレ・ハードの血を受け継ぐ、メロハー系プログレメタル" であり、その路線の究極形が Images〜 だと思っています。
ただ、中には "Metropolis Pt. 1" のような超絶技巧ありきで Images〜 を愛する方々もいらっしゃるわけで、そういった楽曲ごとの嗜好の違いが賛否両論となった理由なのかもしれません。ちなみに私が好きなのは、#1 Pull Me Under 〜 #4 Surrounded 辺りの楽曲群です。
欧州的な『Metropois Pt. 2』、アメリカ的な『The Astonishing』
本作の日本人受けが悪い理由は、言わずもがな "英語への壁" でしょう。
歌詞を理解せずともある程度楽しめた Metropolis Pt. 2 のメリハリのある楽曲展開に比べると、本作は「メロディだけ聴くタイプからは、おそらく脱落者が出るだろうな・・・」と一瞬でも思わせてしまう "単調さ" があります。たとえ、Rush 寄りの Dream Theater が好きだったとしても。
ローカライズされていない洋ゲーと一緒です。自力で翻訳してでも楽しもうとする積極性が無いと、非英語圏の我々にとっては厳しい作品かもしれません。
一応、Amazonカスタマーの中にもストーリーを翻訳してくれている方も存在しますし、以下のブログでも大変わかりやすく解説してくださっています。そちらを読みながら楽曲を流してみるだけでも印象はだいぶ変わるはずです。
参考記事
Dream Theater / The Astonishing 【ストーリー完全和訳】|聴いた、見た、良かった ~音楽・映画・本のレビューブログ~
PS 以降の Final Fantasy を北米圏の価値観で解釈したかのような若干安っぽい展開と言ってしまえばそれまでですが・・・それこそ "映画的なゲーム≠映画" であるのと同様、コンセプト・アルバムに映画レベルの緻密なストーリー性を求める方は、そこまで多くないでしょう。ちなみに私は、普通に感動しました。
最も大事なのは、あくまでも "音楽" です。ストーリーは大事ですが、決して一番ではありません。
その点で言えば本作は "音楽作品" としても優れていますし、必要以上に警戒する必要はないと思います。というか、評価が一巡するであろう10~20年後には、日本でも "コンセプト・アルバムの名盤の一つ" として扱われるようになるはずです。
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