HAGANEYA(@imech_jp)です。
1997年リリース。前作『Promised Land(邦題:約束の地 〜プロミスト・ランド〜)』から3年ぶりとなる通算6作目のフルアルバムであり、黎明期から楽曲の半数以上を手掛けていたギタリスト Chris DeGarmo さんは本作を最後にバンドを脱退することとなります。
Chris さんの脱退理由が Geoff Tate さんの不誠実な態度に拠るものであることは周知の事実ですが・・・事の真相がどうあれ、本作が "グランジ/オルタナティブ・ムーブメントに飲み込まれた作品の一つ" であることだけは明白です。
オルタナティブ・ロック界隈でよく名前を聞く Toby Wright さんをミキサーに採用したり、Stone Gossard さん(Pearl Jam)所有の自宅兼スタジオでレコーディングが行われていることからも、当時の Queensryche が "そちら" 方面に色気を見せていたことがよくわかります。
皮肉にも "風通し良さげ" な爽やか系アメリカン・ロック
- Sign of the Times
- Cuckoo's Nest
- Get a Life
- The Voice Inside
- Some People Fly
- Saved
- You
- Hero
- Miles Away
- Reach
- All I Want
- Hit the Black
- Anytime / Anywhere
- sp00L
結論から先に言ってしまうと、3rd『Operation: Mindcrime』や 4th『Empire』辺りの "NWOBHM × プログレ" サウンドが好きな方々が求めるであろう Queensryche は、ここには存在しません。
どう贔屓目に見ても、本作はいわゆるグランジ〜ポスト・グランジに該当する類の作品であり、対象となるリスナー層は明確に異なります。具体名を出すのであれば、Pearl Jam・Puddle of Mudd・Switchfoot 辺りを彷彿とさせる、ネアカ(根が明るい)系のアメリカン・ロックです。
この作品の面白い所。それは、元々シリアスな音楽性を生業としていたバンドであるがゆえ、相対的に "バンド内に不協和音が流れていたとはとても思えない" 爽やかなサウンドに聴こえてしまう、という点にあります。歌詞については従来の "社会派" 路線が踏襲されている感じですが、本作の軽快なサウンドに乗せて聴くと不思議と重苦しさを感じませんでした。
ちなみに、"本作以前" を好む方の一部にもしかすると引っかかりそうなのが、#6『Saved』#7『You』#14『sp00L』辺りの楽曲です。
Geoff さんのハイトーンボーカルが活かされているという点において、露骨にコマーシャルなグランジを取り入れた他の曲とは毛色が異なるように思えます。#6 の Sevendust を思わせるソウルフルなグルーヴ感はオルタナ界隈のバンドでは珍しいですし、#7 や #14 は、従来のシリアスな Queensryche とオルタナティブなサウンドが融合し、なかなかに聴き応えのある作風です。
"オリジナリティの薄さ" をカバーするクオリティの高さ
便宜上 "問題作" と言っておきますが、そもそも私はグランジ/オルタナティブ界隈の音楽が大好きなので、こういった変化球は大歓迎です。当時 Puddle of Mudd をアホほど聴きまくっていたので、#1『Sign of the Times』で Control(Come Clean)みたいなイントロが流れてきた時は、結構テンションが上がりました。
ただやはりボトルネックとなるのは、Queensryche にしか出せないサウンド "ではない" ということです。グランジでも構わないから "自分達の色" さえ守れていれば、前作同様 "伝わる人には伝わる" 作品にはなっていたかもしれません。
なお、本作で提示した音楽性は "一度限りの変化球" で終わらず、7th『Q2K』や 8th『Tribe』の "ニューメタル" 路線へと発展していきます。その結果、良くも悪くも "保守的なメタルリスナーのアンテナに引っかからなくなった" ため、セールス的には急降下。
「好きなことを仕事にしたら食えなくなっちゃった」みたいな話は割とありがちな気もしますが、ある程度は自分の欲求を満たすことも大切なわけで・・・彼らの歩みを見ていると、つくづく「アーティストは大変な職業なんだろうな」と思わされます。
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