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音楽のこと

【鋼】Dream Theater『Falling Into Infinity』レビュー

2016年8月17日

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HAGANEYA(@imech_jp)です。

1997年リリース。前作『Awake』から3年ぶりとなる 4thフルアルバムですが、1995年に『A Change of Seasons』という EP(兼カバー・アルバム)を出していて、そちらに収録されているオリジナルの1曲が23分を超える超大作なので、感覚的には 5th とも言えます。

なお『Awake』リリース後に脱退した Kevin Moore さんに代わり、Derek Sherinian さんが参加しています。フルアルバムとしては唯一の参加となり、次作『Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory』で Jordan Rudess さんに交代してしまうため、ソロ作以外で Derek さんのキーボードプレイが味わえる貴重な作品です。

さて、本作はザックリ分類すると "メロディ" 寄りの作品になります。ただし、メロディアス系 Dream Theater の代表作として有名な 2nd『Images and Words』とは明確に方向性が異なるため、ヘヴィ系の作風を持つ Awake の支持層のみならず、Images〜 の支持層までをも困惑させてしまったようです。

つまり簡単に言うと、メロディアスなプログレメタルではなく "メロディアスなプログレッシブ・ロック" をメタルで表現したのが本作になります。賛否両論を呼んでしまった原因は、メロディの量うんぬんではなく "アプローチ方法" にあったということですね。

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作品全体を包み込む "オーガニックな雰囲気" は唯一無二

Tool を彷彿とさせるオリエンタルなベース・プレイやオーガニックなキーボード・サウンドが変幻自在に形を変えて楽曲へと溶け込む #1『New Millennium』、Desmond Child さんとの共作によりコンパクトかつ印象的な楽曲に仕上がっている #2『You Not Me』、Alice in Chains を思わせるヘヴィな導入部~ Enter Sandman(Black Album) をテクニカルにアレンジした後半部分が気になる #3『Peruvian Skies』、酒よ(吉幾三) でも歌い始めそうなマイナー調のアコースティックな導入部~憂いを含んだキャッチーなサビとのギャップがクセになる #4『Hollow Years』、Pull Me Under(Images and Words) をグルーヴ・メタルで再構築した感じの作風もさることながら1分37秒辺りのサビ前のキーボード・サウンドによる急激な場面転換に意表を突かれる #5『Burning My Soul』、4分という短い時間の中に美しいギターソロ・変拍子・有機的なメロディが詰め込まれた Derek色が最も強いインスト曲 #6『Hell's Kitchen』、前曲からの繋がりを感じさせる導入部~グルーヴィに暴れまくる前半~メロウなパートにも関わらずハイハットの手数の多さが印象的な中盤以降…と色々な味が楽しめる12分の長尺曲 #7『Lines in the Sand』、"John Petrucciさんの父親が亡くなる寸前の状況を描いた歌詞" の重苦しさを "太陽の日差しを全身に浴びているかのような底抜けにキャッチーなサウンド" が優しく包み込む #8『Take Away My Pain』、Lines in the Sand のファンキーな要素だけに特化したテクニカルなプレイが楽しめる #9『Just Let Me Breathe』、ピアノ・オリエンテッドなメロディに James LaBrie さんの透明感溢れるボーカルが花を添えるバラード・ナンバー #10『Anna Lee』、It's Raining・Deep in Heaven・The Wasteland からなる組曲であり "大自然" を再現したかのような音世界に圧倒される #11『Trial of Tears』。

作品全体を包み込む "オーガニックな雰囲気" は本作独自のものであり、以降の作品はおろか過去作に至るまで似たような作品が一切ありません。ジャケ絵の雰囲気的に近い 8th『Octavarium』や 11th『A Dramatic Turn of Events』辺りで焼き直しでもしてるのかな?と思ってしまいそうですが、音楽性が似ているかと言われると・・・やはり似ていないと思います。何というか、すごく独特な立ち位置の作品です。

とりわけ『New Millennium』『Hell's Kitchen』『Take Away My Pain』『Trial of Tears』などの楽曲が、本作の世界観を端的に表わしているように感じます。前述のような "作品全体の印象を決める" 楽曲が、頭からしっぽまでバランス良く配置されているため、(好みにもよるとは思いますが)通しで聴いても一切ダレません。

この雰囲気作りに一役かっているであろうと思われるのが、まさに Derek さんのキーボードです。本作に有機的なサウンド・アプローチを持ち込んだのは、間違いなく彼でしょう。

前任者である Kevin さんが奏でるメロディを "月" とするならば、Derek さんが奏でるメロディは "太陽" 。それぞれ真逆のカラーを持つ2人ですが、彼らの音に共通しているのは "イマジネーションを掻き立てられる" ということです。

Derek さんの後任である Jordan Rudess さんは、演奏スキルは圧倒的ですが、良くも悪くも "(彼単体のプレイでは)景色が浮かんでこない" のが難点であり、このことが "Images and Words以上の作品を作り出せない" 後の彼らのジレンマへと繋がっているような気がします。次作『Metropolis Pt. 2』における Jordan さんの "(後年の作品に比べれば)前に出過ぎない" キーボード・プレイは完璧であり、それに関して異論を唱えるつもりは全くありません。ですが「あの1作だけで十分だったかな」と胸焼け感を覚えるほどの、後の作品での "悪目立ち" 感はやはり気になるところです。

ともあれ、この布陣によるフルアルバムが本作の他に存在しないという "相対的な価値" も含め、本作は彼らのディスコグラフィの中でも重要なポジションに位置していると思います。

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"テクニック至上主義" 派には駄作、プログレッシブ・ロックの良さが分かる人には "名作"

超絶技巧を第一に求めるリスナーにとって本作は、おそらく "最もつまらない" 作品

でしょう。それは、本作を支持する方々の多くが "古き良きプログレッシブ・ロック" の香りをこの作品に見出していることからもわかります。そもそも "ターゲットが違う" のです。

あと、散々 "プログレッシヴ・ロック" というワードを挙げておいてアレですが、本作には前作と同様 "グランジ/オルタナティヴ" 的な要素も含まれています。彼らの音楽性には合っていると思うので個人的には肯定派なのですが・・・もしかするとこの辺りの要素も、本作の "微妙作" 的な評価に関わっているのかもしれません。

 

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